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2014年10月03日 (金) | 編集 |
2007年に原本が出版され、日本語訳の作業に入ってから7年を経過してしまいましたが、やっと日本語訳書が印刷段階に入り、先日の日本栄養改善学会で、このチラシを紹介しました。
私たち監訳者と共訳者は、米国を代表する栄養教育学者、とりわけ栄養教育の理論化をリードしてきたコンテントの大力作“Nutrition Education: Linking Research, Theory, and Practice”を日本語訳し、より多くの栄養教育・食教育・食育関係者と課題を共有し、課題解決に活用し、次の世代へとつなげることができることを、心からうれしく思います。

栄養教育・食教育・食育(以下、栄養教育)の難題の一つは、生活する人々が学習内容について“理解はできるが、実践することができない”ことだといわれています。これは今、日本全国の健康づくりや食向上の課題として認識され、第2次食育推進基本計画や健康日本21(第2次))で、“認識を実践に移すこと”を施策のコンセプトにあげるほどです。
私たち栄養教育に携わる者たちはこれらの重要性をよく認識し、課題解決に挑戦しつつもうまくできず、試行錯誤を繰り返しているのが、現実です。

うまくできない理由はいろいろ考えられますが、その一つは実践化のための試行錯誤の内容や方法を客観化し、分析し、次の実践へ具体的に活用できない点です。現場の実践事例を沢山手に入れ(自分の体験を含めて)、成功事例に学びつつ、その時に直面する課題に対応することができたとしても、そのプロセスを体系的に整理していない。いや整理に必要な食(食行動や食環境を含む)の理論を持っていないので、次に直面する問題点に即応用・展開ができないケースです。
一方、大学で健康教育理論等を学習しているが、現実の実践事例とつながりにくいケースがあります。この場合は健康教育一般で有用性が検証された理論や方法論であっても、食行動や食環境の特殊性をふまえた具体的な活用法を知らない、活用できないケースです。いずれにせよ、栄養・食の基礎理論、それをふまえた教育実践の理論と、現実の実践との間をつなぐ、もう一次元高い理論の充実が必要なのです。
充実すべき一つは、“栄養教育の全体像(認識と実践の対象領域の全貌)”を俯瞰できる大きな地図、学術的なマップだと思います。 その中に緊急性や重要性の高い課題、自分が対応する現実の課題等の位置を落とし込み、自分や組織としてやるべきことややれることを検討することができるのです。
残念なことに、こうした要請に応える“栄養教育の全体像”を展望し、その中に現実の課題や改善・向上の方法をマッピングしつつ検討する本は見当たりませんでした。
私たち自身もこうした課題に挑戦し、その一つに“食生態学とそれをふまえた食教育学の構築”をすすめてきましたが、明確なマップを描き得ず、大きく苦しんでいました。こんな時に、コンテントのこの力作が発刊されました。

Isobel R. Contento博士との出会い
私がコンテントと初めて出会ったのは1989年ソウル市で開催された第14回国際栄養学会議ポスター発表ボードの前でした。コンテントと韓国ソウル大学名誉教授牟寿美博士と私と3人が、栄養教育理論の確立が急務、しかも実践に使える理論の確立が急務ということで意気投合し、今後協力し合っていきましょうと抱擁し合ったのを思い出します。
その後、何度か互いの論文や概念図等の交換をしていました。偶然にも国際栄養学会のシンポジゥムに、それぞれが国の代表でシンポジストとして登壇し、並んで討論したこともあります。
また1990年には、「食材料選択型栄養教育の主教材としての食品群の国際的動向」研究で武見ゆかり(現女子栄養大学教授)といっしょにコロンビア大学の研究室を訪問し、この時に会期中だった “Earth Friends”を見学し、コンテントの栄養教育理論と実践と大学院教育が質の高い三つ巴のシフトを形成していることを目の当たりにして、刺激を受けたことを忘れられません。
1997年カナダでの第16回国際栄養学会ポスターセッションでは、私の「人間・食物・環境の循環図」(概念図)をベースにした「環境と栄養教育」のプレゼンテーションがあり、近寄って行ったら、コロンビア大学大学院で、コンテント教授の門下生たちでした。台湾からの留学生から”大学院のゼミの時に、miyukiという名前が出るので知っています。あなたは本物ですか?“と逆に質問されて大笑いになり、食環境の2側面、フードシステムと食情報システムの関係性をどうとらえるかという議論になりました。
1998年、私が学会長を務めた第7回日本健康教育学会では特別講演“Environment、Health, and Nutrition Education in the United States” をしていただきました。
一方「共食・孤食の国際比較研究」の一環でアメリカの小学生調査を共同で実施し、研究室若手研究者との交流も進みました。 2006年に私の女子栄養大学退職記念国際シンポジウム“「共食」と「孤食」のあいだ」”で来日され、日米比較研究の成果を含めて、“アメリカでやっと共食・孤食についての学術的な関心が高まり、その研究方法論が検討され始めた”と講演をされました。この時に待望の本書が校正段階に来ていることを聞き、ぜひ日本語訳も出版しようと具体的な約束をしたのです。
2007年4月、待ちに待った本書が出版されました。
早速私は女子栄養大学食生態学研究室時代に私の下、博士論文研究等に励んでいた仲間たち(当時はすでに、全国各地でそれぞれの研究や実践をすすめていた)に次の手紙を出しました。
”(前略)いよいよ、いつも話題にしていたコンテントの“1冊”が出版されました。十数年の熟成期間を経た大力作です。準備中からコンテント教授との約束でしたので、すぐ日本語訳の準備を始めます。コンテント教授は英語文を日本語文に訳すだけでなく、主要な概念を吟味して、もう一つ深い栄養教育の世界を紹介する1冊にしてほしい、と難しい注文を付けてきました。私もぜひそうしたいと願っています。分担した訳文を合体するだけでなく、コンテントの思想や本意を理解し、その方向を共有しながら、各章の訳を分担していかなければならないだろうと考えます。
実際に読んでみると、コンテントの1冊は行間に込められている内容が深く、その上長文の英語で、かなり難解です。したがって、まず概論にあたる第1章を共訳者全員で分担して下訳し、それを持ち寄って、内容を吟味しながら日本語訳をすすめるゼミを重ねる方法をとりましょう。この時、議論に上った重要な用語をリストアップし、英語と日本語の両面から吟味し、“コンテントのキーワード一覧(案)”を作成しましょう。…後略。“
実際に1回目のセミナーで抽出された用語で栄養教育キーワードリスト案を作成し、共訳者全員で共有し、各章の訳に活用しつつ、キーワード一覧の修正を重ねつつ訳出することになりました。文脈や強調点によって、日本語訳は1つではないこと、現時点では関連学会等でもコンセンサスを得ていない日本語や定着していない英語の場合は、近い将来は一般化するだろうから、概念を明確にし、より質の高い日本語に成熟させるたたき台を作ろうと、奮起して出発しました。が、予想を超えた厳しい道のりになったのです。
この間、2008年に台湾で開催された第10回アジア栄養学会のシンポジウム“Nutrition Education and Behavior Change”で、偶然にもアメリカからコンテント教授が、日本から私が招待されて、同じ場での討論する機会があり、いつ発刊できるかと催促を受けました。
一方で、前述の子どもの共食に関する共同研究“Variables of the Theory of Planned Behavior Are Associated with Family Meal Frequency among Adolescents”(Eto K, Koch P, Contento .R.I., Adachi M)をJournal of Nutrition Education and Behaviorに投稿する作業が進んでいましたので、,原書の内容確認等を具体的にすることが出来たことも幸運でした。

共訳者は20名になりました。そのうち、全体を通しての監訳は私と、衛藤久美博士(現在、女子栄養大学助教)と佐藤都喜子博士(名古屋外国語大学教授大学)が担当しました。共訳者による日本語訳を3人の監訳者が分担チェクし、全体討論を重ね、第一出版株式会社の編集担当の方々のご協力を得て、“1冊”にまとまってきました。
解決できなかった課題や、新たな課題を沢山包み込んだ1冊ですが、これからの栄養教育・食教育・食育や関連分野の“研究・理論・実践の環”吟味のたたき台になることを切望しています。もう少し、お待ちください。

これからの栄養教育論チラシ正-1 これからの栄養教育論チラシ正-2
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