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2019年06月18日 (火) | 編集 |
標記の論壇1)を読み、NPO法人食生態学実践フォーラムの機関誌名を「食生態学―研究と実践」とせずに「食生態学―実践と研究」にこだわってきた2)私は、深い感銘を受け、大きな勇気をいただきました。

感銘を受けたことはたくさんありますが、圧巻は、アクションリサーチの古典といわれる1931年公表のレヴィン(Kurt Lewin)論文とその解説等を取り上げ、レヴィンの研究哲学やアクションリサーチのキーになる文章の一言一句を丁寧に読み解き、論をすすめていることです。
今「実践と研究」をめぐるトレンドな方法論の一つであるアクションリサーチが既に、私が生まれた1936年以前から、熱っぽく議論されていたという事実を今まで知らなかったことを恥じ入り、そして感無量です。

最近はなぜか(栄養学分野だけかもしれませんが)、科学的根拠となる研究や文献のシステマテックレビューについて、新しい研究ほど評価が高く、ややもすれば、当該概念について創生期の難産のプロセスや背景を含めた根源的な議論が少なくなりました。
安定期に入った新データーの量的研究成果が優先され、わかりやすくまとめられた論文や報告書が多くなっています。
激動する環境変化や生活の多様化がすすむときだからこそ、当該概念の原点・中核の議論が必要と思います。
用語だけが独り歩きし、学会誌掲載というお墨付きで、行政や教育の行動指標や評価指標に使われ、全国的に同じ方向に実施・普及されていくようで、不安・心配をしていましたから。

勇気をいただいたことも多くあります。
とりわけ、「食生態学」実践と研究の過程で表現したい内容の適切なキーワードを得ずに、混線していた次の点について、もつれた糸解きの基を得たことです。

(1) アクションリサーチとアドボカシーの関係を明確にする論考の中で、両者の関係や関係の強さはいろいろあリ、アクションリサーチは実験型、組織型、専門職型、エンパワーメント型の4種に大別して考えられること。
その中の実験型についてレヴィンは「『科学的アプローチによって、社会問題や社会生活の改善のための仮説の生成、その仮説の実験的な実践、評価、改善』という循環的なプロセスをたどるリサーチである」と説明していると紹介されています。
社会生活等の改善から出発していること、そのために生成した仮説を“実験的な実践”で検証していること、これらの循環的なプロセスをたどるすすめ方を価値づけていることです。
食生態学では未成熟であっても仮説生成を重視し、“生活実験”“地域実験”と名付けて、まさに仮説の実験的な実践、評価、改善を繰り返してきました。このときに「食の営み」の特殊性を基礎に、学習者主体、住民主体、当事者と共にすすめる実験的実践であることを特徴としています。実験的実践はそうでなければ実行できないです。
こうした思いが、本稿の冒頭に書いた「食生態学―実践と研究」へのこだわりになっています。

(2) アクションリサーチという用語を使っていないが、その思想や方法論を同じくして既に活動してきた実績を評価していることです。
論壇の事例に挙げられている岩永俊博グループの活動理念や地道な地域活動については、岩永医師が国立公衆衛生院在職の頃、私は(同院行政栄養士研修の「公衆栄養」を担当させていただいた関係で)岩永医師とたびたびお会いし、“現場でのニーズに寄り添った地域健康づくり実践”の必要性、プログラム形成や仲間づくりの必要性やむずかしさ等について話し合い、教えていただいていました。
「こうした地域活動は研究とは言えない」という大学・研究機関の関係者の評価が多い中、岩永医師は「研究と言われなくてもいい。地域の人や関係者が必要なんだから」と繰り返され、自分たち自身は割り切れても、若い人々を誘い込めない社会的な難しさ等を、話し合い、慰め合っていたことを思い出します。
論壇の中で「岩永医師の……地域の夢を追いかけて実践されてきた活動は、参加型であり、民主的であり、かつ社会の変化をめざしている。それだけではない。見かけにとらわれない本質を取り出し、よりよい研究方法を求める姿勢が常にみられている。……過去、アクションリサーチという言葉を使っていなかっただけである」の一節に、大きく納得でした。
そして、(神馬教授の表現を使わせていただけば)アクションリサーチの用語は使っていないが、「食生態学―実践と研究」もいっしょに褒めていただいたようで、大変うれしく、勇気づけられた次第です。
1931年の原点に立ち戻って、アクションリサーチの研究哲学をふまえた「食生態学―実践と研究と……」へとシフトアップしてゆきたいです。

文献
1) 神馬征峰.アクションリサーチ:知と信の融合を超えていけるか.日本健康教育学会誌.2019;27-2.137-142.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkokyoiku/27/2/27_137/_pdf/-char/ja
2) 足立己幸.「食生態学―実践と研究 第10号」記念に感謝.食生態学―実践と研究.2017;10.4-7.

2019年06月03日 (月) | 編集 |
5月26日、NPO法人食生態学実践フォーラムの2019年総会研修会は、
“「食品ロス」「SDGs」と食生態学―食生態学を基礎に何をすべきか、何ができるか”
をテーマに基調講演・実践課題からの問題提起・討論を行いました。
大変熱っぽい研修会になりました。
この内容とその後の議論の詳細は、NPO機関誌「食生態学-実践と研究」13号で特集を組みますので、ご期待ください。

さて、終了直後から、私の指定発言の内容について感想や質問が入り、特に標記について知りたい・やってみたいと関連する質問が寄せられるので、ここに概要を書きます。

1.指定発言のテーマは“食生態学から「SDGs」「食品ロス」をどう見るか”で、図1の内容構成ですすめました。

冒頭で私は、国連サミットで「SDGs」が採択・公表されたときにすごくうれしくて、興奮したこと。
理由の一つ、2030アジェンダは、開発途上国だけでなく先進国自身が取り組む普遍的な課題であり、取り組みの過程で、誰一人として取り残さない・世界中一人残らずの人が共有できる基本的で包括的なこと。
もう一つはその取り組みにあたって、17のゴール・169のターゲットが提案されたことです。
大きな目標に向かって入口が17(169の入り方を含む)もあって、これらが多様に関係し合っているので、どの入口から入っても「持続可能な世界」を実現することに関わり、貢献できる期待と可能性を示したことです。
とすれば、一人ひとりがそれぞれ一番大事にしている課題について、得意なスキルやネットワークを使って主体的に参加することができる自由、でした。
しかも、「SDGs」のゴールとターゲットは、「統合され・不可分なこと」ですから、どれを入口にしても開発目標に統合されつつ届いていくことになります。
とすれば、今までの実績(失敗も含めて)をばねにして、やりたいこと、得意なことから自分にあった入口を決めて実行してよいのです!
今まで食生態学は、人間の食や生きる営みについて、全体俯瞰統合的に活動目標や評価の検討を心がけてきました。
が、所詮、自分が育ててきた限られた視野・視点の全体像の中での全体俯瞰に留まりがちなことを、どう脱皮できるかを悩んでいました。
「SDGs」は食生態学実践と研究が求めてきた方向と重なり、かつ全地球からの全体俯瞰の提案に見えました。
全地球を視野に、一人ひとりを大切にした「SDGs」の大きなマップを広げて、その中に食生態学実践や研究のプロセスや課題をプロットする。
逆に、食生態学の概念図等に「SDGs」の17のゴールをマッピングすると、国際社会で共有する視野・視点での評価や課題発見や特徴確認ができそうだ! 
すぐ、国連広報センターが作成した17ゴールのロゴカードをコピーして、バラバラにして、自分発想で順番を変えてA4紙に並べ、スマホ写真で記録し、タイトルを付けて、眺めるという一人ゲームをして、興奮したのでした。

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2.「食生態学のめざすこと」の方向を「5つのP」で確認する

まず、「SDGs」の包括的なゴール・持続可能な国際開発のキーワードとして、多くの人と共有しやすいように教材等で使われている「5つのP」を指標に、「食生態学」のねらい、食生態学の視座で検討してきた「栄養・食教育」の定義、これらを基礎にすすめている「NPO法人食生態学実践フォーラム」の目的や活動のコンセプト(文章中のキーワード)を重ねてみました。
「5つのP」とは、People人間、Planet地球、Prosperity豊かさ・繁栄、Peace平和、Partnership連携と説明されています。
女子栄養大学に「食生態学」研究室設置が認められた1969年から現在まで、一部表現法の修正はありますが、「食生態学のめざすこと」と「5つのP」はしっかり重なっており(Prosperity とPeaceに重なるのが、“生活の質と環境の質のよりよい共生”)感慨深く、これからの実践と研究の方向に展望を得た感じです。
しかし、その視野について食生態学では中核に日本を置き、その背景にやや薄く他の諸国を置き、さらに背景に他の生物たちも含めた地球全体を描いているのです。
(自分ではそうでないと考えてきたつもりですが)現実には国ワイドに留まり、地球ワイドとは言えないことの警告を得た感じです(図2)。

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3.「人間・食物・地域の関わりの図」(「地域の食の営みの図」)(概念図)に
「SDGs」17ゴールをマッピングして、食生態学の役割や特徴を確認する


食生態学がめざしている具体的な内容について、「SDGs」の視野・視点で全体俯瞰を試みました。
図3は食生態学実践や研究で下敷きのように使っている「地域の食の営みの図」(概念図)に、該当する「SDGs」17のロゴカードを置き、関連の深さや重要度の大きさでカードのサイズや形を変えながら、マッピングした1例です。
ⓐ直接関わり、実践・研究の環を重ねながら、ネットワークや環境づくりをすすめていると自己評価するカードは「地域の食の営みの図」の中に、
ⓑ間接的だが関わっている、または個人的な活動はすすんでいるかシステム化して多くの人々と共有できる段階に至ってないと自己評価するカードは図の縁に、
ⓒ直接ではないが関わりの重要性を理解し、計画の視野に位置づけたいカードはそれぞれの後方に置いてみました。

○“「SDGs」のゴールとターゲットは、統合され・不可分なこと”を特徴とするので当たり前ですが、17のカードに該当する場所はたくさんあり、ロゴカードをあちこちに貼りたくなります。
今回はあえて1枚だけにしました。
食生態学が「大事にしていること」や「しなければならないこと」の濃淡を浮き彫りにしたいと思ったからです。

○食生態学をふまえた教育的アプローチは、食の営みに関わる全ての人が主体的に「食を営む力」の形成(他へ発信・交流する力の形成を含む)めざしてすすめられるので、長い長方形にしました。
パートナーシップは各所・各課題に沿った連携、それらを巻き込んだ、より包括的な課題取り組みのための連携等が重層的に必要になり、実践効果を高めてゆきますので、長方形のままでなく全体を包む半月形に描く方がよいと思いました。
が、本稿では際限がないのでロゴカードの変形版を取り入れていません。

○図3は完成図ではなく、検討のたたき台です。
取り組む課題、関係する人や組織の活動コンセプト等に合わせて、17のロゴカードを全部使わないで、選択的にマッピングする方法もよいと思います。

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4.<地域や環境にぴったり? わたしの地域の「食の循環図」でチェック!>に
「SDGs」17のロゴカードをマッピングし、これからの活動課題を話し合うたたき台に!


2011年の東日本大震災で町全体が壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町では、その年後半から、自分たち自身で健康づくり・生活づくりができる実力をつけたいという希望が出され、町の保健センターやヘルスメイトが中心になって“「からだ・心・くらし・地域や環境にぴったり合った食事づくり」共食会”で学習・実行・家族や友人へ発信を重ねてきました。
図4は、そのワークブックのサブノート「ぴったり度アップシート」の1ページ、
“「地域や環境にぴったり?わたしの地域の「食の循環図」でチェック!南三陸町の例”
を台紙にしています。
共食会プログラムメンバーは図の下部、大変化した食環境の下、一人ひとりの「からだ・心・くらしにぴったりの食事づくり」の学習と実践をすすめてきました。
地域の生活実験での発見も少なくなく、その一つは、南三陸の海で採れる魚を主菜料理にする食事の時には栄養面や味面で良好なことはもちろんのこと、さらに“おすそわけ”などの人間関係や生きがいの活性化につながっていることが明らかになりました。
一方、町全体として、総力を挙げての豊かな海資源を基盤にした地域開発・生産活動の復興が順調にすすんでいます。
しかし、現実の町民の生活ではスーパーでの購入が多くなり、地元産魚貝類へのアクセスはうまくいかず、悩んでいます。
今回、「SDGs」17ゴールのロゴカードのマッピングで、図の下部に赤点線で囲んだ住民の生活者パワーと、上部の緑点線で囲んだ地域開発・生産者パワーとの連携・パートナーシップの充実が必要なこと、一方「ぴったり食事」等の食や健康学習の機会づくりが偏っているので、乳幼児や学童期を含む若い世代や生産・流通に関わる人々への学習の機会づくりが充分でないことが心配になりました。
抽象的な言葉で“連携してほしい”と願い出るだけでなく、国際的に共有されている「SDGs」17ゴールのロゴカードマッピングを見ながら、地域の特徴を発揮したパートナーシップづくりや食学習の検討ができるように思います。
このときの大事なことは、今マッピングされたカードを固定的に扱うのでなく、ゆるやかに、いろいろの立場や観点からカードを自由に動かしながら話し合うことです。

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参考HP
持続可能な開発目標(SDGs)とは(外務省)
Sustainable Development Goals(国際連合広報センター)
持続可能な開発目標(SDGs)(ユニセフ)


2019年05月30日 (木) | 編集 |
日本中の管理栄養士や栄養士たちが、それぞれの専門性を発揮して社会貢献する基本情報や新展開情報を共有する機関誌「日本栄養士会雑誌」6月号、巻頭1ページ「わたしと食、食とわたし」に公表されたテーマです。

編集委員会からの依頼文には
「テーマは自由です。……思い出に残る食卓、食べることの喜びなど、食の温かみを伝えることにより、あらためて管理栄養士・栄養士が食に携わっていて良かったと感じ、職業意識の向上につながることを目的としております。……」
とのこと、依頼内容の深さにかなり悩みました。
“管理栄養士として、栄養・食の専門家として何を一番大事にしているか?”と自分自身への問いかけでもあったからです。

人間・生活・地域・地球を包括する国際的な課題へ“一人残らずすべての人”をキーワードの一つにする取り組みである“「SDGs」と私たち”で書くか。
両者は密接につながっていますが、栄養・食に関する両極に位置づくような2つのテーマのどちらから書くか、散々迷った結果です。

“いいなと思う(のぞましい)食事像”を具体的に描けない子どもたちが少なくない現状の中、一人の生活者としても、栄養・食の専門家としても、2020オリンピック・パラリンピックを機会に、和「食事」の魅力を発信し・交流したいと願います。

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2019年05月09日 (木) | 編集 |
まさに平成から令和へのバトンタッチの直前、4月30日夜10時からのNHKスペシャル「平成最後の晩餐」で、「共食・孤食」が取り上げられました。改元という重要な節目に、「共食・孤食」について全国中多くの方々が足を止めて(耳を傾けて?)くださっただろうことに、感謝しています。

❤番組は大きく3部構成、(1)平成30年間のフードシステム等社会の変化に振り回されるように進んだ生活者の食生活の変化、(2)生活者の食事・食卓の実態から生活や社会の変化をとらえ、多様な課題や背景を確認し、多様な課題解決の必要性を確認し、(3)すでに始まっている事例を中心に課題解決の可能性のヒント提案ですすめられました。(2)はこれまで私が直接かかわらせていただいた「共食・孤食」をキーワードにするNHKスペシャルの特徴的な調査手法「食事スケッチ法」が基礎になってか「絵は何を語る?子どもの食卓」のタイトルですすめられました。
直接関係した番組とは、A.「家族全員の1週間食事調査」(1975年)結果等をふまえ、「共食・孤食」ということば(概念)を使って、その重要さを問いかけた調査を基にしたNHK特集「なぜひとりで食べるの」(1981年)、B. Aの17年後の変化や新たな課題を問いかけたNHKスペシャル「知っていますか 子どもたちの食卓」(1999年)、C.高齢(化)社会での多様で深刻な「共食・孤食」問題の解決を試行するNHKスペシャル「65歳からの食卓」(2002年)です(NHKスペシャルは平成元年4月に放送スタート。今年4月30日は2本を放送し、「最後の晩餐」は平成のラストを飾る第3056回にあたります)。

❤番組企画側からの要請に応えて「食生態学」関係から2種の資料提供をしました。
一つは、私が初代の教授(当時助教授)で、40年ほど前から注目してきた「共食・孤食」について研究室総動員で研究と実践を重ねてきた女子栄養大学食生態学研究室(現在は武見ゆかり教授)が、今回の企画に合わせて、坂戸市内小学5年生257人の協力を得て、1999年との比較調査をしました。調査法の特徴は1981年から開発研究してきた「食事スケッチ」調査法と質問票調査の組みあわせです。すでに全国さまざまな年代や食課題を持つ人々への食教育や環境づくりに活用して来た「理想の食事スケッチ」と「現実の食事スケッチ」を重ね合わせて検討する調査方法です(今回の番組では「理想の食事スケッチ」は紹介されませんでした)。
今回調査で、子どもたちの「大人不在の食事」率(夕食)が高くなり62%に及んだこと、食事時にスマーとフォン等を使っている(いつも+ときどき)子どもが20%であり、家族と食事の場所を共有していても、食べる行動を共有しているとは限らない問題点を持つこと等を武見教授が報告しました。

もう一つは、私が事前に担当デレクターからのインタビューを受けた応答です。ここ40年間の研究と実践をふまえて、「食卓」の持つ役割・効用は? 昭和・平成を通じての食生活の変化と背景は? 子どもの食卓の現状が訴えることとは? 等々超難問揃いでしたので、2時間を超えるインタビューでした。当日の番組ではその中の次の部分が、上記②の最後から③への橋渡しの部分で、「広がる格差」「多様な食卓」の見出しを背景に紹介されました。
「共食・孤食への関心がある人が多くなったのになぜ、現実の孤食が増えているか?その理由は?」への応答の一部です。多様な食環境・ライフスタイル・食生活スタイル・健康状態・価値観が複雑に重なり合う中、理由やすすめ方は単純ではありませんが、底流に次のことがあると強調した部分です。
「食事が大事、共食が大事と考えている人が約9割と多くなったことは事実(平成29年度食育白書)、しかしそれぞれに他の大事なことが種々ある中で、食事の優先順位は高くないこと。食事は生きていくために欠かせない、さらに他の大事なことを実現するための基礎としても欠かせないので、これらが絡み合って優先順位が高いと考えられますが、現実はそう考えない人が多い。気が付いていない人が多いのでしょう」
そして、「食の多様化、食・健康・生活等の格差とそれらの連鎖が拡大する中で、共食をどう実現したらよいか?」への応答で、「画一的に良い共食はない。自分(家族やグループ)にとって適した共食を「探し合う」ことが大事だと思います」と。
(当日私も番組を観て)自分(たち)にとって「何が大事か? 何が一番か? 食事はその実現のためにどうつながるか? どんな共食の形がつながりやすいか、適しているか? それを実行できるようにするために、わが家(または自分たちのグループや地域)でやれる方法は?」等々についてそれぞれの気持ちや意見を出し合って、気軽に、繰り返し話し合うことができるのも食事の時、まさに「共食」の時なのです!そして、本来一人ひとりの人間としての尊厳に深くかかわる食だから、「食の多様性を育てること・育てあうこと」場としての食卓・食事・とりわけ「共食・孤食」が大事!…と続けて発言したかった、と悔いが残りました。

番組終了直後から、メールが入りました。「……今日の足立先生の発言で自分が納得できました。自分は食事、特に子どもとの共食をとても大事にしていると自負しているのに、実際には家族のスケジュールや子どもの塾などを優先し、家族が一緒に食事をすることができず、自分の努力が足りないと悩み、自分を責めていました。でも、今日、食事より優先順位が高いことがあっても、それに食事がどうかかわっているかを考えることの必要性がわかり、このことを見落としてきた自分に気づきました。……」等。一方で「発言が中途半端だった。子どもたちの発言を重要視して、現場の具体的な営みに直接関わっている研究者と期待していたのに、なぜ当事者側に立った具体的な発言をしなかったのか」等、厳しいメールも多くありました。

❤今回は担当デレクターからの超難題のおかげで、私にとって大きな発見がありました。
平成の時代の「共食・孤食」研究や実践の成果は何だと考えていますか?の質問です。一般的にはいろいろ列挙することができましょうが、一言でいえば何か、を問われたのです。
一言? 少し大げさですが“「食事観の転換」を人々や社会へ問うたこと”。
従来は栄養素等要素還元を中心に評価し、行動・活動目標等設定へと進むやり方が主流でした。「共食・孤食」の視野・視点は食事を食べる人やその環境も含めた食事の営みそのことを全体俯瞰し、必要に応じて要素分析結果をとりこんで再度全体俯瞰で統合した評価を試み、行動・活動、評価、次の方向へと進む食事観への大転換をもたらしたこと、と考えます。少なくても前者だけでなく、後者との双方向からのアプローチの必要性を社会に問いかけた、と言ってよいでしょうか? 
しかも平成では、「共食・孤食」重視を含む全体俯瞰型の食事観が(昭和期には個人的・小グループの“願望やもがき”に留まっていましたが)仲間の輪が全国的に広がり、関連学会等でも研究成果が評価され、食教育や活動の実践現場に取り入れられ、2006年「食育基本法」をばねに、平成の後半では、全国的に教育や行政の理念や活動枠組みにとりあげられ、行動目標や評価目標にも使われ、いわば常識的に扱われるようになりました。その速さに、最初の発題・提唱者としては感謝の気持ちと、方向を間違わないようにという心配とが複雑に絡んでいます。

❤令和への宿題
「共食・孤食」についての急速な普及は、一方で基本的で最重要の問い“「共食・孤食」について、一人ひとりが人間らしく生きる、それが可能な社会・環境との共生にとっての意味”の吟味が充分でないまま、積み残されがちで、後回しになっていることの危機感を伴っています。私は“「共食・孤食」問題が形骸化していることを心配している”と言っています。この内容の吟味なしに、環境、文化、生活、食スタイル・健康・価値観等の多様化に対応する、それぞれの人にとって望まれる共食・孤食のあり方についての検討も進まないと思います。大きな宿題です。

今、「多様な共食・孤食を育てる」(仮題)で、40年間国内外各地でさせていただいた調査結果や理論構築を見直し、上記の宿題を少しずつ解いていくプロセスの1冊を書き始めていますので、今回の「平成の最後の晩餐」は課題の多い、おいしい晩餐になりました。


2019年03月29日 (金) | 編集 |
そろそろ1年近く、ブログにご無沙汰をしてしまいました。私の「ブログに書きたいこと」の宝箱の中はギューギュー詰めになるほど、メモや資料が溜まっているのですが、落ち着いて書くことができない日々が続いてしまいました。今日は久しぶりです。

農水省の食育教材の一つ「『食育』ってどんないいことがあるの? ~エビデンス(根拠)に基づいて分かったこと~ Part2」(平成31年3月)が公表されました。全文をダウンロードして読むことができます。

今、行政や教育、とりわけ食育推進の行動目標や評価指標のキーワードの一つになっている「共食・孤食」について、1000件近くの論文を丁寧に読んで分析した結果をまとめた、大力作です。1977年頃から、人間らしい食事の要件の一つに、「家族と一緒に食事を食べる」ことを提案してきた者として、とてもうれしいことです。当時は「誰と食べるかは栄養学や学問の対象に入らない」と学会で変人扱いをされた頃からすると、夢のように、うれしいことです。いろいろの場で活用できると思います。

しかし、この冊子で取り上げた論文は「自然科学系の科学論文レビュー」のルールに従っていますので、限定された学会誌だけで(大学の研究紀要、報告書、著書等は含まれていない)、さらに2000年1月~2018年9月30日の間に公表された論文なので、共食・孤食論が激しくたたかわれた時期を含んでいません。したがって、自分が知りたい内容や方法については、関係する他の著書や論文と組み合わせて読むことが必要です。私の著作や論文で例を挙げれば次のようなものが役に立つかもしれません。

1)いつごろから、なぜ、人間の日常生活にとって、共食・孤食が問題になったか?どんな問題を含んでいるのか?どうしたらよいのか?いろいろの考えの中で。
○足立己幸、NHK「おはよう広場」班.なぜひとりで食べるの. NHK出版;1983.
○足立己幸、NHK「子どもたちの食卓」プロジェクト. 知っていますか 子供たちの食卓. NHK出版;2000.
○足立己幸、松下佳代, NHK「65歳からの食卓」プロジェクト. 65歳からの食卓. NHK出版;2008.

2)多様な共食・孤食の実態と、問題点、それへの取り組みの経過
○足立己幸. 共食がなぜ注目されているか―40年間の共食・孤食研究と実践から.
名古屋学芸大学健康・栄養研究所年報.2014;6(特別号):43-56. https://www.nuas.ac.jp/IHN/report/pdf/06-2/05.pdf

3)共食・孤食の定義をめぐって
○足立己幸. 家族と“食を共にすること”共食の大切さ.内閣府食育推進室. 親子のための食育読本;2010.13-21 http://www8.cao.go.jp/syokuiku/data/textbook/index.html、
○足立己幸.新しい“共食”観を求めて~多様な“共食”をしなやかにとらえ、発信する.食生態学―実践と研究.2014;7:2-7. 他